2024.9.12 論文がOrganic Letters誌に受理されました

アシルシランとカルコゲン化剤の光カップリング反応がOrganic Letters誌に受理されました。

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.orglett.4c02757

ある種「重いエステル」の一種であるセレノエステルやテルロエステルは、その弱い炭素–カルコゲン結合からチオエステルとは異なる性質を示す。例えばMacMillanやInoueらは、天然物の合成にテルロエステルから生じるアルキルラジカルを用いている。

 しかしこれらのエステルの合成例は限られており、通常還元条件を必要とする「酸塩化物や酸無水物などの活性エステル」と「カルコゲノラート (カルコゲンのアニオン)」の組み合わせが常法である。一方で「アシルアニオン等価体」と「カルコゲンのカチオン」を組み合わせた重いエステルの合成法は知られていなかった。

 我々は、この極性転換の発想を基に、既存とは異なる性質のカルコゲノエステル合成が実現できると考えた。これに用いたのがアシルシランの異性化によって生じる「シロキシカルベン」である。


Brookがかつて見出したこの転位は、熱的には高温条件を必要とするが、光化学的には室温以下でも十分に進行してカルベンを与える。これは可逆であるため、反応しなかったカルベンは失活せずに原系へ戻る。この性質を利用し、現所属研究室の草間先生らは、さまざまな有機合成反応を先駆けて報告しており (e.g., JACS 2011)、多くのfollowersが付くなど近年hotな化学である。


 シロキシカルベンと求電子的なセレン・テルル化剤が合わされば、続く脱シリル化により容易にセレノエステルやテルロエステルが得られるだろう、というシンプルな作業仮説である。実際に反応は低温でも速やかに進行し、種々の重いエステルが得られた。これはアシルアニオン等価体を用いたセレノエステル、テルロエステル合成として初めての例である。典型的な合成法では直接誘導できない、アルデヒド、フェノール、ボリルなどの官能基も許容された。また得られたエステルの一つはiterative couplingsによって染料へも誘導可能であるなど、セレノエステルのビルディングブロックとしての優秀さも示された。


学習院一発目の論文、ついに出ました!

増田の責任著者としての出版も初めてです。進捗のある研究はいくつかテーマがありますが、最初に出すのは、やはり有機合成出身の先生と、典型元素出身の増田とが組み合わさったからこそできたよね、というものが良かったので、このテーマを選択しました。

着任2年目から学生さんに取り組んでもらい、昨年度末には大体成果がまとまっていたのですが、収率の低さやapplicationsに頭を悩まされ、漸く出版に至りました。


最初の実験は自分自身で行い、意外にもセレノエステルはまともにできていたのですが、副生成物が多く、うーん、これは実用的ではないな...という感触。いかんせん、光に弱いとされる16族化合物と、光が必須な転位とでは、相性が悪いのです。しかも、副生成物に至るpathも結構速い。最初は酸塩化物ができているとは分からず、ベンジルだと思っていました。学生さんの1H NMRを全てもらい、よーく眺めているうちに、色やIRを見てもベンジルとは遠い構造であるという結論に。結局13C NMRや単離実験から、酸塩化物や酸臭化物が生成、これが分液しても残ったものが返ってきているという結論となりました。ESI-MSでも分からないわけだ...


最終的に、Lewis酸とセレノスクシンイミドを組み合わせた系でそこそこ収率が出ることがわかり、これによる基質展開をして出版しようということになりました。Lewis酸についてはよく聞かれますが、結構試しています。ここは学生さんの努力をSIに極力反映しましたのでみてください。exampleの単離収率をそろえたり、本法の強みを最大限活かすapplicationを考えて試したりは、自分でも相当実験して詰めました。およそ2週間、実験漬けになっている私を許してくれた周囲の学生さん方には、感謝してもしきれません。とにかく当研究室は、集中して研究する学生さんが大半を占めているので、安心して一気に実験できるのが素晴らしい。


光に関してはボスが新しい機器を揃えてくださり、かなり多くのアドバイスを下さいました。波長もそうですが、光量や距離で再現性はブレるので、ここにかなり多くの神経を使ったのも事実です。低温装置も非常に贅沢なものを使っています。


個人的には、もう少し収率が欲しかったのと、テルルや計算による考察を詰めたかった思いはありましたが、競合先があるかもしれない今日、先駆けてproprityを取るのが最重要と判断し最速で論文化を目指しました。

Umpolungと定義できたのは結構気に入っています。なぜ今までなかったのでしょうか?おそらく、通常のアシルアニオン等価体 (ジチアンやシアノヒドリン) を使ってもセレニル化はできるでしょうが、その先の脱保護条件 (柔らかい金属や強塩基) にカルコゲンが耐えられないのでしょうね。弱いLewis酸条件で行うのも、本手法の特徴であるといえそうです。

次は生成物の活用法を考えていきたいですね。


出版としては、着任1年目からやっている全く異なる仕事があるので、こちらをまとめに入るべく日々奮闘しております (TK君ごめんなさい)。その頃には、今の股肱となってくれている学生さんたちの成果が先に上がってくるのかな...いずれにせよ、どんどん続けて出版していきたいです。


最後に、最初の出版に向けてご声援やご助力を賜りました先輩方や同僚の方々に深く感謝いたします。


R.M.

Ryosuke MASUDA's Homepage

大学の有機合成化学分野で助教をしている増田 涼介 (博士: 理学) のホームページです.