2025.3.10 矢野さん (B4) の成果がChem. Communに掲載されました
“Selenoamides with two reactive sites: synthesis, structures, and dual reactivity of (selenocarbamoyl)phosphines"
Ryosuke Masuda*, Tamaki Yano, Hiroyuki Kusama*
Chem. Commun. in press.
研究の概要
カルボニルの酸素原子をより高周期のセレン原子に置き換えた「セレノカルボニル」化合物は非常に反応性が高く、通常多量化するため単量体での単離は難しい。一方で隣接位に窒素を有するセレノアミドは十分に安定に存在するため、有機典型元素化学や有機合成化学において有用な化合物群といえる。
しかしながら、安定性と引き換えに反応性は決して高くなく、通常セレン上のみで反応が進行する。よって我々は、窒素の「反対側」に第三のヘテロ元素を導入することで、反応点を2つ有するセレノアミドモチーフが構築できると考えた。
以前岐阜大の村井先生らは、ケイ素やゲルマニウムの置換したセレノアミドを報告しているが、これら14族元素官能基は比較的堅牢であり、反応点としての活用は難しい。
今回我々は、新たなヘテロ元素としてリンを選択し、”(セレノカルバモイル)ホスフィン”を初めて合成・単離しその構造決定を行なった。また反応性について検証した結果、用いる試薬によってリンとセレンへの選択性をほぼ完全に使い分けられることを明らかにした。詳細はぜひ論文をチェック頂ければと思います。
_______________________________________________
〜スーパー学部生 矢野 珠己 第一作〜 約180実験、研究室配属から10ヶ月。
学習院発論文第2号、ついに出ました!
特に今回は学生さんが大きな立役者となってくれました。今回以降、学生さんが主体となって仕上げてくれた仕事については、インタビュー形式で論文に対する面白さ、苦労などを伝えられればと思っています。某有機化学系ブログのパクりだと思ったそこのあなた!正解です (笑)。MRP先生ごめんなさい。
学生さんへのインタビュー
著者の紹介
矢野 珠己 (YANO, Tamaki)
学習院大学 草間研究室 B4 (2025年3月現在)
- 本研究の学術的ポイント
世界で初めて(セレノカルバモイル)ホスフィンを合成したことです。結晶構造を明らかにできただけでなく、反応性についても種々検討を行い、適切な試薬の選択でセレンとリンが見分けられることを明らかにしました。コンセプト通り、セレノアミドに「第2の反応点」を与えられたことが重要性ではないでしょうか。
- 実際に研究を進めていくうえで、嬉しかったことや感動の瞬間は?
間違いなく「(セレノカルバモイル)ホスフィンオキシド」を初めて合成した実験ですね。(セレノカルバモイル)リチウムにリン試薬を反応させるのですが、粗生成物のNMRがとんでもなく複雑で、色も茶色く正直絶望しました。ですが、「とにかく精製する」という精神でカラムをかけたところ、シリカがトロピカルジュースのようになっていって。ピンク色のバンドを見た時は湧きましたね。目的物が何色かは全く分かっていなかったのですが、「絶対にこれだ!」と思ってすぐに単離しNMRを測定しました。これが全ての始まりでした。もしあの時化合物を単離できていなかったら、今もテーマは進んでいなかったと思っています。
(注: その後テーマのコンセプトは転換し、ホスフィンそのものから研究することとなった)
- なぜ研究がうまくいったか、その秘訣を教えてください。
1回や2回実験してネガティブな結果が出ても、諦めず精製して得られるものを得てくる精神が良かったのだと思います。数%でも化合物がいることを信じて単離してくれば、その時のアドレナリンが凄まじいので、次に進められます。 ーとはいうものの、実はものすごい数の失敗をしています。今だから言えますが、こっそり進めたホスフィンの最初のcrudeは、訳が分からず捨ててしまいましたし (今見たら結構まともな収率で来ていました。笑)、報告していないentryもたくさんあります。自分の中でボツになったアイデアや実験もありますが、とにかくすぐ実行し結果を分析したことじゃないでしょうか。ディスカッションする中で、増田先生にモチベーションを上げてもらったことも大きいです。
- 実際に研究を進めていくうえで、苦労した点
前述したことと被りますが、やはり最初のホスフィンオキシドの単離までが本当に大変でした。合成後もなかなか反応性が見つからず、かなり苦労しました。研究がホスフィン主体に移行してからは、これまでの苦労が報われたのか一気に進みましたが…研究はコンスタントに進むわけではないという本質を実感しました。あと、お気に入りの化合物の一つであるセレノイミニウム塩の結晶化も相当数検討しました。結局良い条件が見つからずそのまま投稿しましたが、絶対に次は結晶構造を見てやろうと思って実験を続けていますね。
- 研究のお気に入りな点
やはり化合物の結晶性の良さじゃないでしょうか。黄色やルビー色の結晶が大きめに成長してくれるので、見ていて飽きません。特にPd錯体は大きい構造と四員環がカッコよくて推しです。あとは、典型元素化学にしては反応時間も短いし仕込むのも簡単です!元々実験が大好きで草間研を志望したので、本当に楽しく実験できました。毒物や劇物が多く、一時期毒劇物使用記録が私の名前で埋め尽くされたのはやや恐怖を覚え(?)ましたが、取り扱いを勉強できた上でも良い経験になりました。
- 本研究を通して成長した点など
まだB4なのでこれからですし、難しいですね。でもとにかく、諦めず精製して得られるものを得てくる精神が養成できたのは成長した点だと思っています!あとは、研究を進める以上に、論文としてまとめることの大変さを実感しました。化合物データを取ったり、結合長を比較したり、文献を探したり…出版して初めて知ることができました。
- 今後の意気込みを教えてください
とにかくあと一報、来年度中に出したいですね!
今度は1st authorとして原稿にもチャレンジしたいです! (いいね!!) またM2卒業までに、なんとしても自分の設計した分子で論文を出して天下を取りたいです!大学院でも楽しく研究しつつ、考えながら手を動かして分子を創りたいです。
_______________________________________________
増田からのコメント
矢野さんは第一志望で当研究室に来てくださいました。学生実験の頃から手際の良さとレポートの考察の鋭さには光るものがあったため、恩師の武藤さんや村井先生との思い出から大好きだったセレノアミドの化学で研究してもらうことにしました。矢野さんの素晴らしい点はいくつかありますが、「とにかくすぐに試す」は特筆すべき点です。私が毎朝思いつきで「こんなのどう思いますか?」と渡すと、嫌な顔一つせず反応を仕込み、夕方にはcrudeのNMRを考察付きで報告してくれます。このような学生さんは決して多くありません。これは私の指導ではなく、これまでの矢野さんの人生の中で大切にしてきた点がよく表れているのだと思っています。
テーマに関しても、最初渡したものがうまくいかなくても根気強く継続してくださり、ホスフィンが思いのほか安定であることが分かりました。アルゴン下での分液や連続的な反応など、かなり無理のある要求をしても、しっかりとこなしてくれる矢野さんの実験技術とバイタリティは卓越しているといえます。彼女も一部は語ってくれましたが、実は本論文の表舞台に出なかった実験やアイデアが非常にたくさんあります。1回や2回でへこたれず、とにかく精製してモノを取ってくる精神を4年生から持ち合わせている点は驚愕です。またプレゼン能力も卓越しており、本研究を携えた卒業論文発表会では優秀発表賞に輝きました (研究が気になりすぎた某座長が、聴衆に聞く前に質問を始めてしまうほど。笑) 実は研究はすでに次の段階にも進みつつあり、矢野さんのこれからのご活躍が大変楽しみです。
_______________________________________________
論文出版を終えて
論文化にあたっては、2024年の年末に私が思いつきで「これはこういうストーリーなら論文にできそう」ということを矢野さんにお伝えしました。元々朝からJACSのASAPを見るような矢野さんなら関心を持ってくれることは間違いなかったのですが、二つ返事で快諾してくれました。年が明けて2025年1月初旬から原稿を書き始めて色々とアイデアが浮かび、欲も出てきました。毎日一挙に4つくらいアイデアを出すこともしばしばでしたが、毎日驚異的なスピードと精度で実験をこなしてくれた結果、数々のボツ案も出しながらも、本文の中でも重要な結果を出すことができました。1月末日には本文とSIが揃い、ただ1つ気になっていた結晶化の検討を行っていましたが難しい!と一旦断念。2025.2.3の夜に好きなジャーナルの一つであるChem. Commun.へ投稿しました。矢野さんの研究室配属から10ヶ月、テーマの本格的な舵切りからわずか6ヶ月のことでした。B4当時の増田では決して達成できなかった偉業ではないでしょうか。
査読してくださった先生方は高く評価してくださり、分子の推し方についてもかなりしっかりアドバイスをくれたりしました。論文誌の査読でこんなに親身にコメントしてくださるrefereeばかりだったのは、それだけ矢野さんの分子に関心を持ってくださったのだと思うと、感動するばかりでした。個人的な話ですが、増田は学生時代に”Chemical Communications Award”を受賞していたり、執筆にも貢献した最初の論文がChem. Commun.であったりします。何かと学生時代を彩ってくれたChem. Commun.に、本格的に責任著者として発表した論文が掲載されるとは、こんな偶然もあるのだなと思っています。最後になりましたが、卒業論文発表の最後のスライドに、「Yano, T. under revision」を出した矢野さんの誇らしげな表情は、聴衆を魅了したとともに、増田も大変に苦労が報われた瞬間でした。次回作にも期待したいと思います。
0コメント