2026.02.23 菊波君の論文がOrganometallicsに掲載されました
菊波君 (M2) の論文がOrganometallicsに掲載されました!内容的に非常に心配でしたが、査読者の方々に良くして頂き本当によかったです。恒例のインタビューのまとめが終わりましたら、いつも通り更新したいと思います。(更新しました!) まずはおめでとう!
Kyo Kikunami, Hiroyuki Kusama*, Ryosuke Masuda*
"Flash Communication: Synthesis, Structural Characterization, and Reactivity of a Selenazolidine and a 1,3-Tetrahydroselenazine that Bear a Pentafluorophenyl Substituent"
研究の概要
ヘテロ元素を含む環状化合物は複素環と呼ばれるが、通常第2周期までの元素で構成されることが多く、高周期元素を含むものは少ない。実際、イミダゾリジンの窒素原子の1つを硫黄原子に置き換えたチアゾリジンは数々の医薬品に含まれるものの、そのセレン同族体であるセレナゾリジンの例は数えるほどしかない。その理由は、含硫黄化合物と比較し含セレン化合物の原料の選択肢と合成法が極端に限られるためである。
一方、イミダゾリジンの2位にペンタフルオロフェニル (C6F5) 基が置換した化合物は、加熱により対応するN-ヘテロ環状カルベン (NHC) に変換されることが見出されている。我々はこれらの研究背景を踏まえ、セレナゾリジンにC6F5基を導入した誘導体を合成することができれば、対応するカルベンが合成できると考えた。結果的にカルベンは全く発生せず、セレナゾリジンやその6員環バージョンであるテトラヒドロセレナジンが熱的に安定な骨格であることがわかった。反応性については課題が残るものの、ここに新たな含セレン複素環ファミリーを築き上げることができた。合成法の詳細は論文を参照されたい。
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〜苦難の連続から生み出された化学、アリール置換セレナゾリジンの登場〜
2026年初論文です!
RMテーマの学生として2人目に相当する菊波君 (M2) の仕事を遂に論文化することができました。後でも述べますが、これは彼の本テーマではなく、失敗作を新たな知見の一部として公開したものです。ハイインパクトジャーナルや新たなコンセプトの化学が隆盛を極める中、このような地道かつニッチな仕事を丁寧に論文化することもまた、巨人の肩の上に立つうえで重要かと思います。彼にとっても人生初論文ですから、大きな意義があると思います。
学生さんへのインタビュー
著者の紹介
菊波 喬 (KIKUNAMI, Kyo)
学習院大学 草間研究室 M2 (2026年3月現在)
- 本研究の学術的ポイント
ペンタフルオロフェニル基を有するオリジナルなセレン含有複素環の設計・合成経路の確立を行った点と、1,3-テトラヒドロセレナジンの初めての結晶学的同定を行った点です。
- 実際に研究を進めていくうえで、嬉しかったことや感動の瞬間は?
嬉しかったのは、初めて環化化合物が得られた実験ですね。はじめは(論文にはほとんど書いていないが)多くの試薬を試しても全く環化体が得られませんでした。これが、硫黄同族体でうまくいくものが、セレンにした途端に全くうまく行かない、典型元素分野の難しさだと思います。論文には載せていませんが、はじめはベンズアルデヒドで実験を行いました。初めて環化が進行したのでよく覚えていますが、これをペンタフルオロベンズアルデヒドに変えた瞬間に収率が向上しました。ベンズアルデヒドですらうまくいかなかったら、今回の論文の内容には取り組んでいないと思います。
感動の瞬間としては、これも論文には書いていませんが、アミノセレノールを単離していた頃に経験しました。実際にアルキルセレノールがちゃんと単離できるのか!とalkyl-SeHの1H NMRスペクトルを見て感動したことは、結構覚えています。
- なぜ研究がうまくいったか、その秘訣を教えてください。
環化するにはどうしたら良いか?常に考え続け、あらゆる文献を調査していました。これが何より秘訣です (RMから見ても、菊波君はよく論文を読む貴重な学生)。アイデア、試薬、研究会で出てくるものよりも、まず先行研究に学ぶことが大切かと思います。
- 実際に研究を進めていくうえで、苦労した点
結局加熱しても何をしても、カルベンが発生しなかったことですね。笑 折角合成したC6F5を有する2つの化合物ですが、本文でも述べたように変換が何もうまくいかなかったのが苦労です。さらに、高い原料をわざわざ購入した6員環にしても、結局環歪みの解消程度ではどうにもならなかった点ですね。
- 研究のお気に入りな点
計算パートですね。 (自分がやった実験パートじゃないんかい。) 増田先生にやって頂いた遷移状態計算やNBO解析により、本論文の主題とした「イミダゾリジンとセレナゾリジンの違い」に説得力を持たせられた点がお気に入りです。紙面にも賑わいが出て、図が気に入っています。正直全く論文化を予期していなかったので、そんな中でお声がけ頂いて、あっという間に完成したイントロ原稿は「こんな見せ方があるのか...」と想像できないものでした。先生には本当に感謝しています。
- 本研究を通して成長した点など
典型元素でも反応開発でもそうだと思いますが、「この反応は適用できないだろ」という先入観を捨て、意外と使える反応が多いことに驚くとともに、やってみることの大切さを理解できたと思います。僕のネタもまだ論文になっていない研究が多いわけですが、それらも大半は既知反応が適用できています。
- 今後の意気込みを教えてください
場所は変わりますが、来年度から博士なので頑張りたいです。繰り返しになってしまいますが、良い結果ではなかったのに丹念に論文化して頂いた先生には感謝をお伝えしたいです。やはり、いざ論文になるととても思い出になりますし、憧れのOrganometallicsに掲載されたのはとても嬉しいです。いい原料合成とかいい知見が多い雑誌ですよね。
注: 彼は論文をよく読むので、(特に昔の) Organometallics, Dalton, J. Organomet. Chem.あたりの素晴らしさをよく理解しているのだ
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増田からのコメント
菊波君は増田が学生実験を担当した最初の代で、第一志望で当研究室に来てくださいました。学生実験の頃は周囲と全く話さないうえレポートも○評価 (半分紙で隠して見て) を連発しており、「大丈夫かこの学生は!?」という感じでした。研究室見学もウチにしか来ないという常人離れした変わりようが逆に安心感となり、スタッフ満場一致 (2人しかいないけど) で孤高の研究テーマを開始してもらうことになりました。この予想は大当たりで、B4の頃から優れた集中力と感性で色々な無理難題に果敢に取り組んでくれました。その結果、学内での優秀発表賞を学部修士と2連覇という偉業を達成した次第であります (うちの研究室では他に去年卒業の末盛君 (現九大丹羽研博士課程) のみのはず)。
本筋のテーマでは、環状セレン化合物を得ることが必須でした。B4時代に取り組んだ合成経路は合理的にも関わらず最終段階が全くうまくいかず、撤退戦を余儀なくされました。その後修士になってから本論文のような反応の開発に取り組んだわけですが、彼のコメントにあった通り、色々と自分で調査してくれました。これは少しでも論文にせねばということで、僕の全細胞を走らせ新しいストーリーをイントロとしました。本テーマは年会でも発表できる形であり、方向性も定まりつつあります。とてもチャレンジングで勉強も必要でしたが、しっかりと3年間取り組んでくれたんじゃないかなと思います。まあ君ならもう少し実験数できたんじゃないかと思うけど、今はとりあえず褒めておいてやろう。(笑)
彼との研究には色々な思い出がありますが、それは本体となる論文が公開された際にお話するとします。
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論文出版を終えて
ストーリーを考えるのは決して嫌いではないことと、並行して博士時代の大仕事をまとめていたこともあり、論文自体はスムーズに書けました。本人にストーリーを褒めてもらったのは正直に嬉しいです。データが決して多くないので投稿先は悩みましたが、しっかり歴史のある雑誌で揃える拘りが僕にも学生にもあり、OrganometallicsのFlash Communicationsとしました。およそ3日で本文を執筆する中で菊波君もハイスピードでデータを掘り返してくれ、先生のチェックも早かったのでかなりストレスなく投稿まで漕ぎ着けました。2025年の年末、12/29のことです。しかし査読は不安だった...
意外にも (?) 査読してくださった先生方はいずれも高く評価してくださり、丁寧なコメントや指摘がありました。計算に関するコメントも多く、増田も色々と計算をしてResponse Letterを作成したので、Reviseには結構な時間を要してしまいました。ただEditorの仕事が早く、前回と比べてだいぶ早くacceptと相成りました。やはり論文は速いACSが最高ですね。ただ1つ、acceptが菊波君の修論の次の日となったのが心残りでしたが、「もっと実験をして、もっと面白い結果をもってこい」というメッセージ?だったのかもしれません。次回作にご期待ください。
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