2026.9.17 坂井さん (QST)、玉田先生、中村先生との共同研究がJ. Biol. Chem.に掲載されました

学習院の生命科学科卒の坂井さんと中村先生、QSTの玉田先生との共同研究がJ. Biol. Chem.にアクセプトされました!

RMは化合物の合成を担当しただけですが、本当に「ホンモノ」のタンパク質に取り込んで結晶化された様子を見ることができ眼福です (語彙力)。生命科学科の時から懇意にして頂いた中村先生と、坂井さんの進学先の玉田先生、平野先生には感謝しかありません。

そして何より、素晴らしい研究を遂行された坂井さん、おめでとうございます!

今回は先生方から快諾頂き、坂井さんへのインタビューも掲載します。


“Catalytic loop closure governs substrate selectivity in the rhizocticin biosynthetic ligases RhiM and RhiC"

Mizuki Sakai, Ryosuke Masuda, Yu Hirano, Taro Tamada*, Akira Nakamura*

J. Biol. Chem. 2026, 10, 113438.


研究の概要

タンパク質はアミノ酸が連なることにより形成される高分子に分類され、その一種である酵素は生体内の化学反応を触媒する。酵素の立体構造と触媒機能には深い相関があり、これらの構造を理解することは機能に関する学理構築の深化につながるといっても過言ではない。本研究では、ペプチド性抗生物質(リゾクチシン)の生合成経路において、そのアミノ酸連結反応を触媒する酵素(L-アミノ酸リガーゼ)の立体構造を、単結晶X線構造解析を用いて決定した。

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学生さんへのインタビュー

著者の紹介

坂井 みずき (SAKAI, Mizuki)

学習院大学 生命科学専攻 M2卒

(2026年8月現在 千葉大学博士後期課程3年、量子科学技術研究開発機構 連携大学院生)


本研究の学術的ポイント

微生物由来ペプチド性抗生物質リゾクチシンの生合成に関わるアミノ酸連結酵素、RhiMおよびRhiC の反応機構を、酵素の立体構造の視点から提案した。本酵素の活性部位は基質非結合状態では柔軟な構造をとるが、触媒反応に必要不可欠なATP(アデノシン三リン酸)が結合することで、3つの触媒ループが協調的に活性部位を形成し、安定な反応の場を提供する。

本研究の成果は、この構造変化が触媒反応を駆動することや、基質が結合するポケットの環境が基質選択性に寄与することを示した点である。さらに、相同タンパク質では得られていなかった、反応中間体模倣状態の構造取得に成功した点も学術的に重要である。


実際に研究を進めていくうえで、嬉しかったことや感動の瞬間は?

初めてタンパク質の結晶を見た時です。2500程度の条件を検討したので流れ作業的にいくつものドロップを確認するのですが、1個だけ明らかに「結晶」が出ていて、その時の感動を糧に研究を続けました。その結晶の写真はこちら。右が条件調整後に出た結晶のようすです!


なぜ研究がうまくいったか、その秘訣を教えてください。

データが得られるごとに改善点を探し、次の実験に活かすように意識しました。

実際の実験では、本文で述べた順序とは異なり、RhiCにおいては①ADP(アデノシン二リン酸)結合型 → ②AMPPNP(非加水分解性 アデノシン三リン酸 アナログ)結合型 → ③アシルリン酸中間体類似化合物結合型の順でデータを取得しました。①の段階でATPが加水分解されていることが判明したため、②では分解されない化合物を採用し、③ではさらに反応機構を議論するため中間体を模倣した化合物との共結晶化を実施しました。この化合物の合成は増田先生のお仕事で、非常に迅速に合成していただいたため、放射光ビームタイム(X線回折実験)に滑り込みで間に合ったことを記憶しています。このデータがなければ、論文受理には至らなかったと思うので、大変感謝しています。

こんなに喜んで頂いて合成化学者冥利に尽きます。こちらこそありがとうございます!


実際に研究を進めていくうえで、苦労した点は?

一番苦労した点は論文の論理構成です。実際の研究過程では考察→実験だったりすることも多いので、文章にするとき、結果と考察を別々に書くのが大変でした。また、データの解釈と精密化についても時間を要しました。結晶の非対称単位内の解析において、当初4量体としてモデル構築をしましたが、うち1分子のR値(実験データとモデルの一致度を示す指標)の収束が悪かったです (僕ら小分子の化学者も悩まされるポイントですが、その比ではないでしょうね)。そこで結晶の空間群を対称性の低いものに変更して16分子(4分子×4)として再解析を行い、改善した電子密度マップが得られ、R値も収束させることができました。


研究のお気に入りな点は?

全体としては似た構造をしていても、僅かな差がタンパク質の性質の違いをもたらしているという点です。それぞれのタンパク質に個性があって面白く感じます。


本研究を通して成長した点など

実験・解析では、あっさりと結果が出る時もありましたが、思い通りに進まない時もありました。うまくいかない時こそ、その試行錯誤の過程を通じて課題解決に向けた実践的な手法を開拓するという経験をすることができました。

また、研究は多くの方の協力によって推進されるものであると実感しました。みなさまのおかげで論文受理に至りました。

大変恐縮ですがこの場を借りて御礼申し上げます。

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論文出版を終えて

坂井さんはすでに量子生命科学会でご受賞されるなど、進学先でも目覚ましいご活躍をされています。本研究は、まだ坂井さんと中村先生が学習院におられたときにスタートしました。僕の最初の学生だった黒木君が共通の知り合いだったこともあり、スムーズかつ楽しい共同研究を開始することができました。実際の酵素ではアシルリン酸エステル型の小分子が取り込まれ反応が始まるそうなのですが、これは不安定なので、酸素をメチレンに置き換えた分子を作ろうということになりました。アミノ酸の取り扱いは比較的自信があったのと、お2人からのご意見も的確で比較的容易にサンプルを合成できました。文献の調査から合成経路の相談まで、分野の垣根を越えて行った経験は、僕にとっても貴重だったと思います。実際に合成が終わった化合物をお渡ししたあと、坂井さんが結晶を出すまでに本当にあっという間。「タンパク質の単結晶は運が絡む」と学部の講義でも習ったので、それが一瞬で終わったのは驚きと共に、中村研と坂井さんの叡智と技術の"結晶"であると感じました。これまでタンパク質モデル研究をやってきた身としては、結晶構造のメールを見た時の感動は相当なものでした。生命はまだまだ神秘に満ち溢れていますね。改めて感謝申し上げます。

2026.9. RM

Ryosuke MASUDA's Homepage

大学の有機合成化学分野で助教をしている増田 涼介 (博士: 理学) のホームページです.